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畑地雑草との戦い方memo

目 次
  1.前提−畑地雑草とは
  2.畑地雑草防除の目標
  3.畑地雑草の防除をどう考えるか
  4.畑地の雑草害
  5.畑地にはどんな雑草が生えているか
  6.いろいろな雑草防除法
    (1)防除法の特徴
     1)耕種的方法
     2)機械的方法
     3)化学的方法
    (2)主要作目毎の留意点




1.前提−畑地雑草とは
 耕地雑草とは、耕地に生える、作物(人間が作ろうと思って作っている植物)以外の高等植物のこと。植物は、生えてはいけない耕地に生えたときだけ耕地雑草になる。畑地雑草(以下、雑草)とは、耕地雑草のうち、畑地に生えた耕地雑草のこと。畑地とは、水田以外の耕地を想定。すべての雑草が防除の対象になるけれども、このうち、草地や果樹園の場合には、邪魔にならないものには無理に手を出すな、強害雑草だけはなんとか、で、防除すべき草地雑草とは「許可なくして生えたる高等植物」だ。道ばたに生えているものは、今は耕地雑草ではないけれども、次の世代では耕地雑草になるかもしれない。

2.畑地雑草防除の目標
雑草防除の目標は、雑草の発生密度を下げること、絶えず下げる努力を意識的に続けること、そうしていずれは雑草防除を不要にすることだ。長かった雑草との戦いから解放されることこそ雑草防除の目標だ。

◎発生密度を下げる、下げる努力を意識的に続ける。
◎繁殖器官を畑地に持ち込まない。
◎畑地に発生するときは、繁殖器官形成前に駆除する。
◎作物がないときこそがチャンス。
◎作物への直接の害を防げさえすればいいのではない。

3.畑地雑草の防除をどう考えるか

 (1)畑地では、通常、いくつかの作物による輪作体系がとられている。雑草防除は、各作物について対処するだけではなく、輪作体系全体をみわたしておこなう。

 (2)おおかたの畑地では、土中には雑草種子がふんだんにあり、作物を育てながら生えてくる雑草を駆除しようと考えている。それはむつかしいことだ。ほんとうは、作物がないときこそがチャンス。収穫のあと、後作のまえ、休閑のとき。

 (3)ある1草種だけ発生するということはまずない。ほぼ同時に数種が発生する。頃合いを見計らって一斉にたたく。ここではタイミングが重要。それぞれの草種にはそれぞれの発生に適当な条件があり、それが作付する作物の栽培暦にうまく合致する場合に問題になる。雑草は勝手に生えているようにみえるけれども、実は、土壌の攪乱によりコントロールされており、その仕方によって、発生を助長することもあり、抑制することもある。

 (4)ある作物について、減収しないから、ほどほどの残草量があってもよいというわけにはいかない。その残草が結実したり、繁殖栄養器官が生長すると、次作以降の雑草害のもとになってしまい、いつまでも雑草との戦いから解放されない。

 (5)減収しないから、この時期までで除草を終わらせてもよいというわけにもいかない。種類によっては、かなりおそくに発生しても結実するし、作物に覆われても結実する。

図1. 発生時期別種子生産量 (競合なし、渡辺1965から改写)

図2. 作物生育下での種子生産量の例(今野・小宮、1948)

 (6)作物の収穫後、残ってしまった残草の生育は、いっせいに旺盛になり、よく結実する。

 (7)雑草発生・結実の前歴がある圃場では、発芽可能種子が土中で生存している。条件が好転すると、一斉に発生する場合もある。

 (8)雑草の繁殖体は圃場の中だけで再生産されるのではない。自らが持ち込むこともあり、自然界の普通の成り行きで持ち込まれることもある。

 (9)したがって、雑草防除の目標は、ある作物への直接の雑草害を防げればよいということだけにあるのではなく、畑地利用の全体を通して、極力、発生密度を下げてゆくことにある。

 (10)雑草発生密度を下げること、絶えず下げる努力を意識的にすることが、除草作業を容易にし、除草剤選択を容易にし、あるいは無除草剤を可能にする。そして、農業が雑草防除から解放される道筋だ。

 (11)雑草発生密度の低い圃場では、ある作物では、除草剤使用が不可欠であり、ある作物では、無除草剤も可能だ。

 (12)雑草発生密度が十分に低くなった圃場では、殊更な雑草防除は問題にならない。これが雑草防除の目標だ。


4.畑地の雑草害

 (1)養分・水分・光などについて競合し、発生が多いと減収させる(徒長し、分げつ・分枝が少なくなり、収穫物の充実・肥大が小さくなる)。

 (2)収穫物の品質を低下させる場合がある。
麦類の水分乾減阻害(コヌカグサなど)、大豆の汚粒発生など。

 (3)病害虫の温床になる場合がある。
麦類北地モザイク病=ヒメトビウンカ(スズメノカタビラ)、コムギ眼紋病(イネ科雑草)、大豆わい化病・インゲンマメ黄化病=ジャガイモヒゲナガアブラムシ(シロクローバ)、アズキノメイガ(太い茎の雑草一般)など。

 (4)防除作業を余儀なくさせる。


5.畑地にはどんな雑草が生えているか

 (1)生えそうな、あるいは生えてしまった雑草を、一網打尽、いちどに全部退治するのが畑作における雑草防除のやり方だ。タイミングを外しては台無しだ。雑草の発生時期や、生育の進み具合を知っておいたほうがよい。また、駆除したい雑草に効果のない除草剤を散布するのは恥。おおまかにでも、除草剤の選択性(何に効くか)に関わる雑草の分類を知っておいたほうがよい。表2は雑草の生育の様子(休眠型、発生生態など)によるおおまかな分類、表3は除草剤の選択性によるおおまかな分類だ。1年生雑草と、定着した多年生雑草との差はおおきい。1年生雑草では効果的な方法でも定着した多年生雑草には無効な場合がある。多年生雑草でも、種子から発生してまもなくのうちは1年生雑草と同じと見なしてよいだろう。イネ科対象剤だから、イネ科雑草なら何にでも効くとか、非イネ科対象剤だから非イネ科雑草なら何にでも効くというわけにはいかない。

 (2)各種雑草図鑑に記載されている発生生態が、北海道でのそれと一致しない場合がある。自分でよく観察することが必要だ。

@ ハルタデハコベスカシタゴボウなど
A シロザイヌタデナギナタコウジュなど
B イヌビエスベリヒユなど
C イヌビエアキメヒシバタニソバイヌビユアオゲイトウツユクサなど
D ハコベスカシタゴボウハルタデなど
E スズメノカタビラハコベスカシタゴボウナズナノボロギクイヌカミツレなど
F シバムギコヌカグサオオスズメノカタビラエゾノギシギシキレハイヌガラシなど

 (3)主要な畑地雑草の特性

 1) イヌビエ(ヒメイヌビエ)・・・外観には変異が多い。種子には休眠があり、成熟直後は発芽しない。冬季の低温で覚醒。発芽は25℃以上の変温で良好だが、光があたれば15〜20℃でもよく発芽する。深さ3cm以内でよく出芽するが、10cm深でも可能。夏季には二次休眠し、発生は少ない。吸水種子は55℃24時間処理で死滅、47℃では多くが生存(石川)。種子の寿命は短い方で、1年半後には大部分が死滅する。ヒメイヌビエ(var. praticola)を分け、イヌビエは湿地を好み、ヒメイヌビエは中生地を好むとする説もある。ヒメイヌビエは道東の畑作地帯で多い。

 2)スズメノカタビラ・・・発芽温度は最低5℃、最適10〜20℃、最高30℃。出芽は1p以内の土層からが大部分で、4pより深い層からは発生しない。種子の寿命は短く、1〜2年。休眠は弱く、いつでも発生できる。秋発生は越冬する。低温・多湿条件地帯では多年生タイプが多いという。

 3)シロザ・・・成熟種子は休眠、越冬中の低温湿潤で覚醒。発芽には変温を要し、最低が5℃で日較差が大きいほどよく発芽。温度条件が満たされなくても、1〜2秒瞬間的に光が当たると発芽できる。出芽深度は2〜3cm以内。陽性で、アルカリ性を好み、乾燥に強い。エンバクの3倍以上の窒素吸収力がある。後期に発生しても結実能力が高い。種子寿命は長く、土中種子は4年半後で50%以上が生存の例あり。

 4)イヌタデ・・・種子には強い休眠があり、翌春には破れ、平均気温7〜10℃くらいになると発生。出芽深度は1〜3p。夏期には発生しにくい。土中種子は4年半後で10〜30%が生存の例あり。種子は三角状卵形。托葉の縁に長い毛がある。

 5)ハルタデ・・・土中種子は春季には覚醒。中耕・培土などで土壌を攪拌するとよく発生する。早くに結実したものはその年のうちに発生することもある。土中種子の寿命は5年以上。発芽適温はタデ類の中では比較的低く、生育期間も短い。托葉の縁の毛は短い。種子はレンズ形か三稜形。オオイヌタデとの種間交雑が疑われる個体も散見される。

 6)ハコベ・・・日長反応は中性で、いつでも開花・結実できる。夏までの結実種子は休眠がごく浅く、落下するとすぐに発芽できる。出芽深度は1p以内。発芽温度は最高30℃、最適10〜20℃、最低2〜5℃。pH5.5〜6.5で肥沃地ほど生育旺盛。リン酸欠乏に弱い。めしべの先は3裂。種子生産量は360〜1,600粒/株の調査例あり。土中種子は4年半後で30〜50%が生存の例あり。越冬もする。

 7)スカシタゴボウ・・・種子には弱い休眠があるが、成熟直後でも変温・光条件で容易に発芽できる。暗黒下ではほとんど発芽できないので、発生深度はごく浅い。土中種子の寿命は約2年。ロータリーなどで直根を裁断されてもそこから再生・繁殖する。越冬もする。

 8)ナギナタコウジュ・・・成熟種子には弱い休眠があるが、ひと月たらずで覚醒する。発芽温度は5〜25℃。光で促進され、中耕後によく発生。種子の寿命は短く(畑地雑草の中で最短ともいわれる)、土中で1〜2年程度、4年半後での生存が10%以下の例あり。秋期に結実し、寿命が短いので、作物収穫後の反転耕起が有効。独特の臭いがある。

 9)ツユクサ・・・種子には休眠がある。10cm深でも出芽可能。作物による遮光にもよく耐える。種子の寿命は土中で4年半を過ぎても40%以上。地面についた節から発根する。削っても、地表に水分があると茎から発根し、枯死しない。

 10)タニソバ・・・発芽温度は10〜30℃。タデ類の中では発生が最もおそい。種子には休眠があり、深い。種子の土中寿命は非常に長く、4年半後で50%以上が生存の例あり。霜に弱い。

 11)ノボロギク・・・5〜25℃の温度範囲でよく発芽する。圃場条件下では、発生深度5mm以内、寿命は5年以内。有毒植物で牛馬に肝臓壊疽をおこすこともある。手取り除草の効果は高いが、残存すると、冠毛をもった種子が飛散する。効きにくい除草剤の連用は要注意。

 12)多年生・・・シバムギコヌカグサは根茎で、オオスズメノカタビラはほふく茎で、キレハイヌガラシは横走根でも繁殖する。エエゾノギシギシでは根冠から再生する。多くは種子でも繁殖する。キレハイヌガラシは不明。エゾノギシギシ種子は牛に採食され、排泄後、スラリー貯留槽に3ヶ月間浸漬されても死滅しない。


6.いろいろな雑草防除法

 いろいろな防除法を体系的に、的確に実施することによって、直接的な雑草害回避にとどまらず、十分な防除効果(発生密度の低下)を期待できるようになる。

(1)防除法の特徴

 1)耕種的方法

  ・とくに雑草防除だけを目的としないが、意図し、適期に実施することによって防除効果が高くなる生産手段。雑草発生密度が十分に低くなった圃場では、これだけで雑草防除の目的は達成できる。

 @完熟堆厩肥の施用・・・堆厩肥が雑草種子の供給源になっていることが多い。堆積時、表面にはびこる草は、結実前に駆除すること。栄養を与えて、たくさん結実させて、畑に撒き散らかすのは愚の骨頂。雑草種子は50〜60℃以上で死滅するので、雑草防除のためにも完熟させてから施用することが重要。

 A輪作・・・秋播小麦の連作では、作付中の機械的防除法は不可能なので、越冬1年生や多年生雑草の発生密度を高めてしまいやすい。輪作体系下ではこれを回避できる。

 B耕起・整地・・・土中に生きた種子がある場合、反転耕起は寝ていた種子を起こすことになる。それが出芽したとしても、結実前に駆除できるなら、土中種子密度は低下する。作物収穫後、直ちに反転耕起できるなら、結実前の雑草を深く埋め込むことができる。結実してしまっていたら、寿命の短い雑草種にとっては痛手。寿命の長い種子には執行猶予。作物収穫後の雑草の生育・開花・結実が発生密度を高くする一大要因になっているので、結実前の耕起・整地(秋耕および後作の播種床造成)の効果は絶大である。そばや野菜の晩春播き以降の作型、草地更新では、雑草を発生させ、幼苗のうちにロータリー耕で埋め込む。ただし、土中種子を地表近くに出してしまうことや、多年生雑草の栄養繁殖を助長することもあるので、推移を見ることが大切である。

 C被覆(マルチング)・・・遮光性マルチ(黒色・緑色・褐色・紙マルチなど)下では雑草は生育しにくい。黒色や紙マルチは遮光率が高く、地温の上昇を抑制したいとき、半透明の緑色や褐色マルチでは、地温の上昇を期待したいときに利用できる。除草作業を軽視しがちなので、株元や無被覆畦間の雑草が繁茂しやすく、注意が必要である。

 D緑肥・休閑・・・雑草を発生させて、結実前に耕起・整地する。これを1年間に何度か繰り返すと、発生密度を相当低下させることができる。

 E適正な肥培管理・・・欠株・生え切れをつくらない。初期生育を旺盛にする。

 F中耕・培土・・・発芽中〜発生初期雑草の脱水・埋没による駆除効果が期待できる。晴天で、土壌が乾燥している場合の効果は高いが、過湿の場合はあまり期待できない。殺草効果を上げるためには、イヌビエでは草高の3倍以上、シロザ・ハルタデ・ハコベなどの非イネ科広葉雑草では2倍以上の覆土が必要で、爪刃式カルチベータでは株間および生育の進んだ雑草には効果は低い。ロータリー式では、畦間の効果は高いが、株間への効果は期待できない。水を含んだ土中種子を地表近くに出してしまうので、却って発生を助長することもある。乾燥時に浅めの中耕を再度行うなどのアフターケアとセットで有効になる。


 2)機械的方法

・除草を目的とした機械的方法は、作物とともにある雑草を駆除。これが必要な場合には、直接の雑草害を軽減するとともに、発生密度低減に不可欠。
・土壌や大気の水分条件が効果を左右する。なるべく乾燥条件で。作物に近接する場合、作物への悪影響は避けられないので、作業は慎重に。
・作物のない期間には、作物への加害を度外視できるので、大胆に行える。機械作業による耕種的方法も、意図する場合にはここにも該当する。

 @反転・撹拌・・・既出

 A除草機(クリーナ)による株間除草・・・引き抜きおよび覆土による殺草効果が期待できる。土質・土性・土壌水分・雑草生育程度などで効果に差が生じ、さらに作物を損傷することもあるので、作業強度を調節するなど、慎重な作業が必要である。土壌水分が高い場合には砕土性が低下するので、播種前の砕土・整地作業の時点から粗い土塊を作らないようにする。土中種子を地表近くに出してしまうので、後期発生を助長する場合がある。

 B表層攪拌・・・作物の出芽・萌芽前に、スプリングハローやチェーンで地表を攪乱する。発芽中〜発生初期の除草効果が高い。

 C刈り取り・・・圃場周辺の雑草は種子の供給源となる。この結実前の刈取りも、発生密度低下のためにきわめて重要。草地では、新播草地の春生1年生雑草駆除に有効(掃除刈り)。放牧地の強害雑草(アメリカオニアザミセイヨウトゲアザミエゾノギシギシなど)にも有効。

 D中耕・培土・・・既出

 Eホー除草・拾い草・・・タマネギやニンジンで損傷の影響が大きいので、注意が必要。この作業からの解放が雑草防除の主たる目的だ。

 F種草取り・・・発生密度を下げるために重要。おそくとも種子がこぼれる前に行い、搬出する。畑地に放置すれば意味がない。この作業からの解放も目的のひとつ。


 3)化学的方法

  ・除草剤を利用する方法。

  ・能率的な防除法だが、効果万能というわけにはいかない。機械的防除と耕種的防除とを組み合わせた体系的な実施が必要である。

  ・除草剤には選択性(なにに効くか)がある。いまのところ、作物込みで、イネ科と非イネ科の区別が主、その中で得手不得手な草種がある。ある草種が不得手な剤を連用すると、その草種が増えてくるということもある。雑草は枯れないで、作物が枯れたということもある。雑草の出芽時に効くものや、幼苗時に効くものなど、剤が有効に働くためには、適した使用量・使用時期があり、使用法を慎重に適用しなければ、もったいないことになる。

@散布時期による区分

 @ 土壌処理・・・対象雑草が未出芽の状態で散布処理すること。雑草種子が発芽し出芽するときに、土壌に散布し土壌表層に滞留させた剤に接触させることで殺草する方法。つまり、処理の適期は作物播種後〜出芽直前で、作物と剤との相性によって異なる。効果のばらつきを避けるため、整地、作物播種後の鎮圧を丁寧に行わなければならぬ。土性(土壌粒子の大きさによる分け方、砂土とか砂壌土とか)のちがいや、土壌水分のちがいも殺草効果や薬害程度に影響するので、注意が必要。剤の残効期間と発生する雑草の出芽時期とが一致しなければいけないので、対象雑草種であっても残効期間後に発生するものには効果は期待できない。残効期間は剤や降水などの条件によっても異なるが、通常は50日程度。

 A 雑草茎葉処理・・・既出芽の対象雑草に散布処理すること。剤を雑草茎葉に付着させ、接触または吸収・体内移行させることで殺草する方法。作物栽培期間中では、通常、処理適期には作物も出芽しているので、作物も剤散布の影響を受けやすい。雑草幼苗期が処理適期になっている場合が多い。作物収穫後とか播種床造成前の処理では、土壌残留性を避けることができれば大胆な処理が可能。処理時の雑草葉齢とは集団のなかの最大葉齢(異常個体を除いて)のことで、たとえば雑草1〜3葉期処理というのは、対象草種の最大葉齢が1〜3葉に達したときに処理する。1〜3葉に収まる時期ではない。処理時に発生していない雑草には効果はない。

 B 土壌兼雑草茎葉処理・・・対象雑草が未出芽状態・既出芽状態で混在する場所に散布処理すること。混在は同一対象草種内、異種対象草種間のいずれでも起こる。有効な場合、ある対象草種に対して土壌処理効果も茎葉処理効果もある場合と、ある対象草種には土壌処理効果があり、ある対象草種には茎葉処理効果がある場合とがある。薬害を受けないですむ作物の状態にもよるが、散布適期間を長くとることができる。

A散布場所による区分

 @ 部分散布(帯状散布、スポット散布)・・・必要な場所に、散布面積当たり基準量を投下する方法。通常は、バンドスプレーカルチ等で作条に散布する。散布量調整に注意が必要。豆類や生食用とうもろこしなど、畦間は中耕や手取りで対応できる作目で期待できる。

 A 全面散布・・・密条播麦類や豆類の狭畦幅栽培、直播てん菜・ゴボウ・ニンジン等の初期生育量が小さい作目、高級菜豆・ナガイモのような支柱を設置する作目、キャベツやブロッコリーのような損傷によって病害を誘起されやすい品目、極早期培土の馬鈴しょやダイコンのような高畦造成を伴う作目などで機械的・耕種的防除が実施困難な場合、てん菜などの省力・低コスト栽培が必須の場合等には全面散布はさけられない。
 圃場に作物がないときにも有効な場面がある。


イ、主要作目毎の留意点

・発生密度がまだ十分に低くなっっていない圃場では、以下に留意することが重要。
・発生密度が十分に低くなった圃場でも、留意しておくに越したことはない。

 1)秋まき小麦・・・秋まき小麦とともに生育する越冬1年生雑草(表2のE)が優占しやすい。なかでもイヌカミツレは小麦の穂のあたりで目立つ花を咲かせるので、よけいに目立つようになっている。多年生雑草(表2のF)は、やむを得ず連作を繰り返した所では優占するようになる。コヌカグサ(レッドトップ)は小麦に合わせるように結実し、収穫作業に助けられて種子を散布する。根茎はしたたかに生き残り、はびこる。定着した多年生雑草には、播種床造成時の除草剤使用が有効だ。単なるロータリー耕では根茎を細断し拡散するので、多年生雑草の増殖を支援することになる。越冬1年生雑草は、イヌカミツレを含めて秋処理除草剤に有効なものがある。収穫で雑草の生育環境はいっぺんに好転し、目立たなかった雑草も旺盛に結実するようになる。小麦の収穫後は、速やかに反転するなどの対策が大切だ。

 2)豆類・・・春生え春生1年生雑草(表2の@からD)が多い。発生期間が長く、やっかいだ。豆類の初期生育量が小さいので雑草の生育に好適で、雑草害(減収など)を受けやすく、除草剤に対する感受性(薬害の出やすさ)も高い。とくに小豆で顕著。前作までの防除で発生密度を下げておくことが大切だ。播種床造成による効果は、雑草がまだ活動を始めていない場合にはあまり期待できない。播種時に除草剤を使用しても雑草発生を完全に抑えることは至難で、中耕・培土・除草機使用などの工夫が不可欠。菜豆は黄化・収穫時期が早いので、収穫跡の雑草繁茂の可能性が大きく、速やかな反転などが大切だ。

 3)ばれいしょ・・・豆類と同じ春生え春生1年生雑草(表2の@からD)が多い。浴光催芽や早期植付けがすすみ、萌芽が雑草の出芽よりも早くなってきているので、従来の雑草処理除草剤を使える場面が少ない。萌芽した芽を痛めやすくなって、萌芽前の表層撹拌も難しくなった。だが早めの培土が、優占しやすい初期発生雑草の駆除に有効だ。ただし、培土表層からの発生があり得るので、昔のように半・本と2回に分けて行うなどの工夫が必要だ。植付時培土で除草剤散布をする場合、土壌表面積が広いので、通常の散布量では効果が期待できない。収穫作業は、生き延びた雑草の駆除効果が高い。収穫跡で秋発生の可能性があるので、速やかな反転などが大切だ。

 4)てんさい・・・直播では豆類以上に初期生育が緩やかなため、雑草に負けやすい。現在使用可能な除草剤を使用の場合、殺草効果が一番期待される時期にはてんさいが小さすぎ、薬害の心配がなくなる頃には雑草が大きくなりすぎる。雑草発生の多いところや、1回目処理で効果不十分な場合など、2回がけと中耕の組合せに工夫が必要だ。移植では、薬害の心配は少ないが、現在よく使われている剤は、直播においてもそうだが、対象の非イネ科春生1年生雑草に対する選択性にやや得手不得手があり、どの除草剤を選ぶか、または複数回処理の組合せ方などに、工夫が必要だ。畦間に発生する秋生え雑草には収穫作業・茎葉すき込みの効果は高いが、種草取りを怠ると、元の木阿弥だ。

 5)野菜・・・作目や作型が多様で、また、作物が機械的損傷を受けやすく、除草作業を実行しにくい。作付回数が多い場合は耕起・整地の効果が高い。労働競合や畦形状・マルチ敷設などから、除草作業ができないことも多く、前作までと播種・移植時までの防除がとくに重要。作型によっては遮光性マルチが使用できる。タマネギは畦幅が狭いが、被度が小さいので、雑草が繁茂しやすい。倒伏期以降は一層繁茂しやすいので種草取りは不可欠。連作が多く、特定の除草剤を連用すると、その選択性からはずれた草種が優占しやすい。除草剤の適切、的確な使用と効果のことなる除草剤の組み合わせ使用により、使用基準の下限領域の使用及び1〜2回程度の処理回数の削減が可能。機械的防除で茎葉を損傷し、品質を落としやすいので注意が必要。

 6)草地・飼料作物・・・草地更新時の防除、とくに多年生草種の駆逐が重要。前植生を見極めて、除草剤全面散布による完全更新が必要か簡易更新で十分かをきめる。播種床造成法・草種品種の組み合わせ方・播種量・播種時期・播種精度・発芽率などによって、牧草定着の様子に差があり、その後の雑草発生程度は異なる。更新初年目は的確な掃除刈りと肥培管理、経年草地では適切な利用と肥培管理・追播の実施など、裸地を作らないことが重要。放牧草地では再生を確保できる計画的利用と肥培管理が重要。スラリーや堆厩肥施用で雑草種子を草地に供給する例が多いので、完熟させることや、草地の雑草駆除をおこなって原料に雑草種子を混入させないことが必要。強害雑草は、進入初期に駆除することが大切。完全更新時のサイレージ用とうもろこし栽培は、防除の効果が高い。前植生処理が適切なら、雑草発生を見て、茎葉処理除草剤を使用する。多年生雑草を実生のうちに駆除できる。

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